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    「うむ、わしか」

    何かしら、すつ飛んでしまつた。白い光るものも、鬼倉の隈取くまどりのやうに荒い皺の走つた顔も、それからあの、もやもやした怒りも。そして、ぼんやりとして次のやうな話がとり交はされるのを聞いていた。

    さう云ひすてて、大きな音を立てて下駄をひきずりながら立去つたのだ。

    「さあ、どうぞ。ずつとお通り下さい」

    房一は苦笑した。

    さう云ひながら一寸横目で自分の膝のわきに据ゑたずつしりと厚味のある榧かやの碁盤を眺めた。

    「うん、うん。あ、さうだ、顔を一寸洗はなくちや」

    「金色夜叉」はやはり小説であると、わたしは思った。

    と、きよろりとした目つきに返つた徳次は、立ちはだかつたやうな恰好になりながら、房一の傍に停つて訊いた。

    徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。

    徳次は又ぐらりとした。

    「しかしお松の生んだ子はほんとうに半之丞の子だったんですか?」

    「はあ、いや。もう手前どもは老いぼれ同然ですからな」

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