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    「おや、いつのまにそこに来てなさつたかね。お茶ですか、上げますとも」

    「おい」と盛子を呼ぶ声がした。

    「さつき、はじめは、はてな、見慣れない男がいるな、と思つたくらいですからな」

    「先生、どうしなさる?着て行きますかい」

    と、道平は云はれた通りに腰を下さうとして、椅子の円々とふくらんだ真新しい天鵞絨びろうどの輝きに目をとめると、しばらくまじまじと眺めていたが、もう腰をかけるのは止めてしまつた。やはりゆつくりした様子で立つている。

    今泉は一寸いやな顔になりかけたが、

    が、練吉が駆け登つたのを見ると、先方の男は急に威丈高になつて怒鳴つた。

    「ねえ、大変!早く」

    それは莫迦げたことにちがひなかつた。だが、その莫迦げた習慣の中に今房一は身を以て入りつゝあるのを感じた。

    と、おづおづ答へた。

    と、房一はそれまで彼のわきにおとなしく坐りこんでいた犬に声をかけた。川を渡る間中、落ちつかない様子で、普通に地面に坐るのとはちがふ感じにぺつたり船底に腰をつけて時々中空に鼻を上げて、何かの匂を嗅いでいた犬は、房一が自転車を持ち上げるのと同時に、足の下からさつと河原にとび降りて、そこら中を駆けまはつた。

    「や、さうですか。僕も今そこから帰るところです」

    「ハッパさね」

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